衣料品の完全自動生産出来る“スマートファクトリー”の実現性

衣料品の完全自動生産出来る“スマートファクトリー”の実現性

 

色々な意味で業界に波紋を広げてきたZOZOTOWNの前澤社長が、昨年2018年8月に打ち出した“スマートファクトリー”構築を目指してエンジニアの募集を行いました。

(参照 : http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1808/14/news067.html#l_yx_zozo.jpg

その後の進行状況を知るすべがないのですが、この方向性に対して色々と私なりに考えて行きたいと思います。

 

衣料品の流れとして、コモディティー商品とパーソナル商品の流れが有ります。

工業的に考えると、縫製の自動化がし易いのがコモディティー商品であることは明白です。

マーケットで言うと、ユニクロやGAPの定番化された商品群や、ビジネススーツ、ユニホームなどが思いつきます。

人の勘やテクニックに頼らないモノづくりではなく、徹底した工程・作業・動作分析、標準化が行える商品群が実現化されやすいと思いますし、実際その辺りの商品が進んで行っているように思います。

ZOZOSUITで計測した体系データーに基づいた供給商品が、Tシャツ・Gパン・シャツ・スーツなどで有るのも、デザイン・仕様が標準化(工程の固定化)が出来るアイテムであることとも関連してきます。

 

ここで注意すべきポイントは、縫製の完全自動化に向かうときに、その素材の均一水準の問題が必ず起こります。 素材となる生地の工業的な安定性・均一性を一定誤差範囲に抑えることは、実はものすごく難しい事なのです。

この安定性を求める時の条件としては、

①比較的安定した繊維を使用する > 従来の天然繊維をそのまま使えば困難

②不安定な織・編組織では困難

③生地を作る工程を考えると、小ロットでの品質安定と再現性は困難

と言うことにブチ当たってしまいます。

つまり、素材選択の幅が非常に限られた状況になってきてしまいます。

 

縫製の(完全)自動化におけるパーソナル化への対応可能部分は、

・ZOZOSUITの様に、各個人の体型に対応したパターン作成・自動裁断

・レーザーによるGパンへのダメージ加工や、製品での転写プリント

・インクジェットプリントを使用した生地の柄表現

などは思いつきますが、素材の多様性(不安定性)に対応する為の縫製機器の制御系アプリは、センサー機能の向上も伴いながらも、簡単ではないことが推測されます。 素材・仕様によって縫製機の調整・パーツ交換が都度しなければならないのですが、結構大がかりな話になってしまうかなと想像してしまいます。

 

日本国内生産の工場で、部分自動化の比率を上げようと努力されている工場では、アイテムを絞り、裁断前の生地の安定度を上げる工程を縫製工場内でされていることも、上記の因果関係が有るかと思います。 又中国で、部分自動化率を上げて行っているTシャツ工場は、工員一人当たりの生産数量が平均的な縫製工場の2倍ですが、ここに至るまでには、部分自動化に対応できる工員育成には苦労をされたお話もお聞きしましたし、サイズ替えに伴う機械調整の効率化の為の試行錯誤は大変であったろうと推測いたします。

 

既にアメリカでは1ユニット一億数千万円のモデルが出てくるなど、衣料品の完全自動生産が出来る“スマートファクトリー”は現実味を帯びてきております。 当面対応できる商品群、素材、デザイン・仕様は、限られたものになるかと思いますが、進化していくことは予感させられます。 勘違いしそうなのは、色々な素材、デザインを1着づつフルオートメーションで出来そうなイメージですけど、それはまだまだSFの世界で事業性は???です。

 

プロモーションなどでは、セーターに関して“ホールガバメント“が先行していますが、デザインにより人の手が必要で、例えばフードを付ける場合、リンキング操作がやっぱり必要であり、データー入力や機械セッティングを考えると、1着ではハイコストに成ることも理解しておく必要が有るかなと思います。

 

ここで、フルオートメーションに進んで行く時の素材ですが、やはり現代の繊維のラインナップから行けば、ポリエステルが先行して行くのではと思われます。 ここ30年で世界人口が40%程度増加し、その増加分の衣料を賄っている繊維は、主にポリエステルです。 生地素材は、熱や湿度に反応しますが、それに対して安価で安定性が有るのがポリエステルなので、自動化に適した素材であると思われ、この面からもポリエステル繊維が進化して行き主役になるのではと考えています。 何れにしろ、縫製工程だけの問題ではなく、川上からの環境整備が必要である点もお忘れなく。

 

見方を変えて、衣料品のコモディティー商品の生産は、後進国が中進国にステップアップするときに必要な産業であった部分が有ります。 設備投資金額が比較的少なくて済み、且つ労働集約型の産業で多くの労働者を吸収してきました。 日本を中心に考えても、日本>韓国・台湾>一時期東南アジア>中国集中>アセアンへのシフト>南アジア>アフリカ と生産エリアが移動しながら、経済的には地域の工業化を進めてきた経緯が有ります。 ここでもし急速に、少品種大ロットの衣料品の生産が“スマートファクトリー”に移行した場合、未だ資本集約や工業化がなされていない地域との経済格差が広がるリスクも有ると、素人ながら考えてしまいます。 ただ貿易の自由化によって、格差是正に向かうという教科書的な考えからしても、世界的な物の流れは、同時に莫大な物流量を引き起こしており、コレって地球的には結構大きなコストではないかとも思われ、地産地消的な方向も必要かな?とも思ったりもします。

 

この“スマートファクトリー”と相反する方向性が、熟練工や匠的な縫製が一方に有ります。 この部分をデータ化・工業化するのは、更に次のステップになるのですが、その時点まで熟練工の経験を継承できるのかが、結構際どいかとも考えてしまいます。 技術は進化するだけではなく、退化も消滅もします。 繊維関係の技術も、かつては日本に有った物が継承されずになくなってしまった部分も出てきています。 事業性の問題、継承者の問題などから、結構簡単に無くなってしまうので、急がなければならない状況でもあります。 中国からの技術移転が進む前に、技術低下が進んでいることを見ても、日本国内の技術継承が結構大事かと。 あとこの部分の熟練工の技や経験・知識を効率よくデーター化するアプリや機器の開発も本当に大事ではないかとも感じます。 一般的にどの職種でもそうですが、熟練工は自分で作業操作できますが、体系的・論理的に説明してもらうのは、本当に苦労する部分ですから。

 

今後のマーケットの欲求に左右されますが、本来のファッションを楽しむ文化を残していくには、実は“スマートファクトリー”で、多種多様の素材を、多種多様なデザイン・仕様で生産出来るかがポイントになるかもしれないと思ってしまう現状が有るので、早く次のステージが見えてくればいいなと思っています。

 

“Made In Japan”の日本人の物づくりの繊細さを切り口にした商品が多く出回っています。 単に産地表示の為の国内生産ではなく、日本の熟練工が持っていた技術・経験を、人に頼った継承でなく、確実にデーター・ノウハウとして持ち続けられるかの方が単にコスト問題ではなく、より重要なのではと感じます。

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